実は昔からの付き合いだった
そこで私の顔を見ていたらしいのです。Hさんの家は私の家からさほど離れていない場所にありました。古いアパートの造りで、部屋はすべてHさんの家族が住んでいます。
Hさんの部屋に入って、最初に私が見たものは、壁に貼られたカール・マルクスの肖像画でした。Hさんは都内の有力私立大学に通う大学生で、専攻は経済学です。大きな本棚には資本論を始め、多くの経済書が並べてあります。私はなんだかずいぶん昔の学生の部屋へ来たようでした。
「私大の文系の英語なら、長文読解がキメテなんだよね。だからこれを読んで、まず読解力をつけなきゃ」そう言って渡されたのは、一冊の英書でした。表紙には『ECONOMY』という単語が読み取れました。
Hさんとの付き合いは、それから何年か続いたのですが、大学院へ進学し、それからアメリカへ留学が決まってからというもの、なかなか会う事ができませんでした。それから更に月日は流れ、あっという間に二十年が過ぎました。今ごろは何処で何をしているのでしょうか。